前回の記事ではライトな小説・マンガを紹介したのですが、今回はちょっと込み入った純文学を紹介することにしました。
突然ですが、私が世の中の「不条理さ」を知ったのは10代の頃でした。皆さん多かれ少なかれそれくらいの時期に「人間心理の複雑さ」のようなものに気がつくのではないでしょうか?
今回はそんなときに読んだ日本近代文学、そして今も読み直してしまう物語の一つ、
太宰治の『斜陽』について語ってみようと思います。
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文学少年少女が一度は陶酔するといわれる作家さんです。
私は陶酔しているわけではないのですが、『斜陽』だけは何回か読んでいます。ちなみに同じ作家の『人間失格』も読んだのですが、こちらはストーリーが苦手であまり好きではありません・・・。
4人のメインキャラクター
この作品には4人のメインキャラクターがいます。
かず子・・・出戻りの長女。作家・上原に恋をしている。
お母さま・・・かず子と直治の母。貴婦人。
直治・・・かず子の弟。戦争から帰ってくる。最後は遺書を書いてダンサーと自殺。
上原・・・無頼派の作家。結核を患っていて死が間近に迫っている。
人物紹介だけで何だか凄い設定です。笑
文章の軽やかさを味わう
『斜陽』の冒頭部分は有名です。
「朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、
「あ。」
と幽かな叫び声をお挙げになった。」
何だかこの3行だけでも美しい文章です。
私はそれまで太宰文学は暗い、退廃的なイメージがあったのですが、実際読んでみると文章が軽やかで読みやすいんです。
恋と革命に生きるかず子
主人公のかず子は出戻りで実家に帰ってきているのですが、 実は夫ではなく作家の上原にずっと恋をしていたのです。
上原にはすでに妻子がおり、結核を患い死が近づいているのですが、かず子は死にゆく上原の子どもを産み、一人で育てていきたいと思います。
「恋と革命に生きる」と宣言し、そのために上原へ会いに行くかず子。
相手の奥さんからしたらたまったものではないですが、かず子の気持ちは純粋です。
それを承知する上原も上原だし、今思うとすごい話だと思うのですが、その当時は「かず子かっこいいー!」と思いました。
生活の内と外
『斜陽』の登場人物は世間的に見ると、とてもまともな人には思えません。
それは彼らが一般生活の「外」にいるからだと思います。
太宰は、「世間は笑顔でほがらかに嘘をつく」と嫌っていたようで、それは作品の中にも表れています。
かず子が上原に言います。
「世間でよいと言われ、尊敬されているひとたちは、みな嘘つきで、にせものなのを、私は知っているんです。私は、世間を信用していないんです。札付きの不良だけが私の味方なんです。」
「人間失格」というタイトルも「ほがらかに嘘がつけない自分は人間失格だ」という意味が込められているとかいないとか・・・。
太宰の作品は生活の内から外れた人に寄りそうもの
この作品を読んだ当時、学校に行かなくなった私は生活の内から外れた感覚でした。
勉強に意味が見いだせなくて、授業をさぼって関西のセンター街で遊び呆けていた時期もあります。「こんなことをしても意味がないのに」と思いつつ、止められませんでした。
そんなときに直治の遺書の部分に、
「この人の放埓には苦悩がない。むしろ、馬鹿遊びを自慢してる。ほんものの『阿呆』の快楽児。」
という文章があるのを読んで、「苦悩をともなう放埓をするものは阿呆ではない。」というメッセージに救われたことを思い出します。
フランスに住んでいる現在も日本の生活の外にいるとも言えますので、もう1回読み直すとまた違った感想が生まれるかもしれません。
純文学というと固い印象があるかもしれませんが、短編から読むと入りやすくていいですよ。
ふらんぽんでも今回は、モーパッサンの『首飾り』という短編で読書会を開催します。(詳細はコチラ)
一人で味わうのも乙ですが、皆で話し合って物語を深めてみませんか?
投稿者プロフィール

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フランス西部にて夫と二人暮らし。
アメリカ留学後、都内英語スクールで講師をしていました。
現在はライター&占い師としてフリーな働き方を模索中。
深く掘り下げる太陽さそり座、情報伝達が得意な月ふたご座です。
ULLA名義の占い個人鑑定はこちらから受け付けています。
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